第9章 決意
さあ、どうする。
まるで自分意外誰もいないような静寂。
静かすぎる。その方が有難い。
バージルは妙に広く感じられる部屋の中、隅の机に座り目を閉じて考え込んでいた。
何度も何度も、振り子のように思い出され消えてゆくのは、の笑顔。
自分に向けられていないというだけで凶器になる、綺麗な愛しい笑顔。
バージルは目をすっと開けた。
ゆらめく決意。
俺はどうするべきだ。
きっと、嫌われただろう。
聞かずともわかる。
つい数日前に、泥棒にあんな目に合わされたのだ。
それなのに、また俺が無理に触れた。出会ってからそう時間も経っていない男が。
バージルは笑った。
これではあの泥棒と同じだな。
首筋に触れた時、は震えていたのに。
確かに震えていたのに、俺は。
無理矢理。
―――考えても無駄だな。
しばし考えを巡らせた後、背もたれによりかかる。
そう、まるで決めているのに悩んでいるようなものだ。
言い訳を考えているようなものだ。
一番嫌いな、言い訳を。
俺はまたを傷つけてしまうかもしれない。また無理矢理押さえつけてしまうかもしれない。
取り返しのつかない事になる前に離れるべきだ。
バージルはゆっくりと、椅子から立ち上がった。
どう考えたとしても、付き合いの長いヒュウイとそんな彼を仄かに好いている彼女にとって、自分は第三者でしかない。
はヒュウイの事を好き、ヒュウイもに好意を抱いている。
出ていくのはヒュウイではない。
俺の方だったのだ。
ヒュウイに出ていけとわめいていた自分が急に滑稽に思えてきて、バージルは眉根を寄せる。
この家に特に思い入れはない。彼女のためになら、くれてやってもいい。
コートと閻魔刀を取ると、振り返らずに部屋を出た。