第22章 動く4
「一応礼を言う。ひいろが世話になった」
赤髪が足を止め、俺を見る。
「あいつを傷つけていいのは、俺だけだ」
「……背中の傷は、お前がつけたものか」
「そうだとしたら?」
「これ以上、ひいろには触れさせない」
赤髪が少し驚いたように片方の眉を上げて見せ、その後小さく笑った。
「ふっ、できるもんならやってみな」
「心配しなくても、そうするさ」
下から睨みつけるように暫し鋭く俺を見ていたが、背の高い者の声にまた歩きだす。
「織田と喧嘩はしないで下さい。ほら、早く行きますよ。まったく、あなたのせいで私の大切なお酒が……あぁ、勿体ない」
いつの間にかことねの側にいた者も、背の高い者に並んでいた。たどり着いた赤髪に尚も背の高い者が、ぶつぶつと呟く。
「そろそろ黙れ。酒ぐらいで、ぎゃあぎゃあ言うな。いくらでもくれてやる」
「言いましたね、かならずですよ。いくらでもですからね」
「あっ……あぁ、二言はない」
その言葉に満足したのか、背の高い者は口を閉じた。赤髪がため息をつき、こちらを向く。
「死なせるなよ」
「無論」
その言葉ににやりと笑うと、赤髪達は屋根の向こうへと消えていった。やつらがいなくなると、張り巡らされていた糸がほどけるように、その場の空気が緩んでいった。
「……はあぁぁぁ」
大袈裟なくらい大きな息を吐き、ことねが膝から崩れ落ちた。