第22章 動く4
「おい、酒を出せ」
「はぁ?何故、私の酒を?」
「早く出せ」
「……わかりましたよ。まったく、その娘の何にそんなに執着してるんですかね」
赤髪の言葉に背の高い者はぶつぶつと言いながら、それでも言われた通りに竹筒を取り出すと投げてやった。
「悪いな」
そう言いって受け取ると、赤髪はひいろへと近付き腰を下ろす。
「腕の傷をみる」
そう言う赤髪に噛みつこうとする一之助を、家康がなだめる。
「ひいろの様子をよく見て、急いで止血しないと危ない」
「くっ……」
何とか黙ると一之助は視線をひいろへと向け、その様子に小さく頷いた。
「あんた、ちゃんと手当てできるの?」
「多少」
「ならこの膏薬を傷口につけて。なるべく固いものを添えて固定して」
「あぁ」
赤髪が家康と並び、腕の布を外すと傷口に酒を流しかける。時々ひいろはうめき声を上げるが、もう言葉を話す気力はないようだった。
見守るだけの、じりじりした時が過ぎていく。駆け寄りたい思いを自分のやるべき役割を考え、なんとか押し留める。
ことねも同じ思いなのだろう、胸の前で祈るように組んでいる手の指がきつく食い込んでいる。
程なくして赤髪が立ち上がる。手当てが済んだのか、しばらくひいろの顔を見つめ気が済んだのか、振り返り背の高い者の方へと歩いてくる。