第2章 気づき
「お嬢様、家康様が急におみえになって、薬草図鑑のことでお話があるとお待ちです。なので、今お迎えに伺おうかと……」
番頭は俺に頭を下げ、ひいろにそう告げる。
ひいろの表情が一瞬華やぐが、すぐに平静を装うように元に戻る。
「わかりました。すぐに伺います。」
そう言うと俺の方を向き、行ってもいいかと問うような眼で俺を見る。
「行ってやれ。旨い酒は、またの機会にとっておく。」
吉右衛門から、旨い酒が手に入ったから一杯どうかと誘いがあった。ひいろと共に吉右衛門を待つつもりで話していたが、今日の所は帰るとしよう。
ひいろの頭を撫で、顔を見る。
「俺は大丈夫だ。ちゃんと仕事をしてこい。」
「はい、ありがとうございます。」
嬉しそうに微笑むひいろの、耳もとに顔を寄せ囁く。
「あまり家康に見惚れているなよ。お前はすぐに顔にでるからな。」
ひいろは、さっと自分の頬に手をやり、少し怒ったような顔をして答える。
「光秀様のいじわる。」
「今ごろ気付いたか?」
「ふふふっ。」
ひいろは優しく笑い、俺の手から荷物を受け取り、一礼すると軽く手を振る。俺も軽く手をあげ答える。それを見届けると、ひいろは店の中へと消えて行った。