第2章 気づき
いい顔で笑うようになったな
いろは屋までの帰り道。ひいろを送りながら、笑うと眼が無くなるように細くなるその顔を見て、俺はふと考えていた。
ひいろは、まわりに他の者がいる時は、あまり俺としゃべりはしないが、二人きりの時は嘘のようによくしゃべり、よく笑うようになっていた。珍しいことに、俺は、そんなひいろとの時間を、少し待ち遠しく思うようになっていた。
ひいろは、城や武将たちの話を好んで聞いてきた。はじめは珍しさからかと思っていたが、それだけではないことに、すぐに気がついた。
「最後は、家康だな。」
俺のその一言に、ひいろの顔は瞬時に赤く染まっていく。分かりやすい奴だ。
ひいろの足が止まった。家康のことでも思い出したか、頬を染めたまま、話し声まで小さくなっている。
ひいろは、いつも最後に家康のことを聞きたがった。目をキラキラさせ頬に赤みがさすその顔は、家康を思う少女のような顔だった。気付かない方が無理な話だ。