第13章 離れる【光秀編】
命じられた座敷はどちらかというと城の奥にあり、普段は使用されることの少ない場所だった。絵を見せるというよりは、密談をするのに適している所。何か意味があるのかと、少し気になった。
廊下で出会った皆を引き連れる形で座敷の前につくと、開け放たれた座敷の奥には、すでに上座に御館様が座しており、両脇に秀吉と三成が控えていた。
そして御館様の前には、ひいろがいた。
「遅くなりました」
俺の声にひいろが身体ごと振り向き、丁寧に頭を下げる。いつもの濃い紫色の着物に黄色い帯を締め、髪も上げることなく垂らしたままで、さらさらと揺れていた。絵師としていつも会うひいろが、そこにいた。
顔を上げ、目が合うと俺に分かるように小さく微笑んだ。それに合わせ、俺の口元も軽く緩んだ気がした。
「遅くはない、こやつらが早く来ただけだ」
「信長様が早く来るようにと言ったのではないですか」
「ほう、そうだったか」
「そうです」
「こら、ひいろ。場所をわきまえろ」
昨日見た御館様とひいろの馴れ合いがはじまるかと思った所で、秀吉が止めに入る。
「申し訳ありません、秀吉様」
すぐにひいろが秀吉に頭を下げる。
それを見た御館様がにやりと笑うと、顔を上げたひいろはふいと横を向く。秀吉が小さくため息をつく。