第5章 Rey3
◇◇◇
1時間程度のレッスンだったが、どうすれば声がよく伸びるかとか声の出し方について仕込まれた。
あとは「それを癖にすればもっと上手くなるよ」と、万理さんに念を押された。
『なんかすいません…』
「何がだい?」
『歌が好きな癖に楽譜も読めなくて』
「でも音無さんは凄いんじゃないかな?」
言ってる意味がわからなくて首をかしげた。
すると万理さんが私の頭に手を置いた。
…もしかして撫でてる……?
「聴いた音をそのまま声に出せるじゃないか」
『それって凄いことなんですか…?』
「ただ歌が好きなだけでは出来ないと思うよ」
『そんなものなんですか…』
「一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな」
そう言うと、万理さんは私の頭から腕を引いた。
撫でてもらうなんて事がないせいか、少し名残惜しいだなんて…思ってない。
『なんですか?』
「自分で音域を狭くしてるとかそう言う感覚はない?」
『どう言う意味ですか?』
「ちゃんと訓練すれば女の子の声でも歌えそうだよ」
見破られた。そう思った。
実際、全く歌えない訳ではなかった。
でも…高確率で喉が潰れる上に、最悪数日声が出なくなる。
『……今のままでいいんです』
「そんな勿体無い。両声類というのは立派な武器だよ?」
『武器って…私……』
「長期間の訓練が必要だから今すぐとは言わないよ」
『………考えておきます』
「いい返事を期待するよ。それじゃあ、俺は仕事に戻るから」
『ありがとうございました』
万理さんが出て行くと、私は最後に一曲だけと男性アーティストにしてはキーが高い曲を歌うことにした。
『……ッ』
やはり喉に負担がかかる。
1曲だけなのに2時間以上ぶっ続けで歌ったような感覚だ。
『やっぱり無理だよ…』
◇◇◇