第34章 怪我人
燭台切「そんなに緊張するなら、まずは僕と練習するのもありじゃない?」
「いや、なしでしょう」
彼の提案らしきものを断ると私は深呼吸をする。
人助けのためにやるなら、これは人工呼吸だと思えばいい。
鶴丸さんは……そう、鯉が泳いでるため池に落ちて溺れて目が覚めない、だから私が人工呼吸をして助ける。
ただそれだけのことだ。
「ん……ッ……」
先程と同じようにそっと唇を重ねると、やはり……柔らかい。
不思議なことでもないのに、その柔らかさが本当にキスしているんだと実感させられてちょっと恥ずかしくもあった。
恥ずかしいと感じている時点で、下心があったりしたのだろうかと、自分のことながら理解できずにいた。
変なの……。
ゆっくりと霊力を流し込んでいくと、不思議なことに吸い取られていると感じられることにこれはまさか……と、嫌な想像をしてしまう。
これは、たぶんあれだ。
吸いとられているのは気のせいではない。
つまりは……私がまた寝たろうさんになる可能性があるのだが、それはもう仕方がないと諦めそのまま深くもせず離しもせずと唇を重ねたままでいる。
クラクラとしてくると私の中の霊力がすべて持っていかれそうと思えたところで唇を離すと私は……倒れた。
燭台切「えっ!あ、主?」
「お、かしいな……霊力、高い……はずなのに」
燭台切「ちゃんと寝てないからだよ……」
「あぁ……そ、いえば……私、元気じゃ……なかっ、た」
ずっと書類を見てばかりで身体のあちこちからポキポキ音がするようになるし、寝てないし、頭のなか文字の羅列でいっぱいだしと体調は万全ではなかった。
だからこうなってしまったわけ、か。
「出でよ……こんにょしゅけ……」
こん「呼ばれましたか!」
いつもなら呼んでも出てきやしないのに……まあ、出てきてくれてよかった。
「こんちゃん……私を部屋まで運……」
こん「重たいので無理ですよ!」
……狐ってどう調理すれば美味しくなるんだっけ?