第11章 世界にひとつだけの花
【ボクが死んだ日】
気付いた時は、ボロボロのシャツを纏ったまま
凍るように冷たい地面に投げ出されてた
男の姿はもうない
全身を襲う痛みと恐怖心で、ズボンを探す手は震えてた
膝をガクガクいわせながら、どうにか脚を通し
転がってたスニーカーに足を突っ込むと
泥にまみれた上着を胸に抱いた
どれくらいの時間、拘束されたかもわからないまま
暗闇を夢中で走り抜ける
一歩踏み込む度、痛みを感じたけど、それがどこなのかさえわからない
アパートの錆びた階段を上り、ドアに手を掛ける
だけど、鍵は掛かったままで…
確かに灯りは漏れてるのに、ノックしても反応がない
ノブを掴む手が漏れた灯りで、ハッキリと視界に映る
黒く汚れ
血が混じり……
妙な粘膜質でべとついてる
「お…おと、うさんっ…おねがいっ…あけてっ!」
絞り出した声は、ガラガラに掠れ
思うように響かない
だけど、出さなきゃ…
出さなきゃダメだって
怖くて怖くて
ドンドンドンドン、ドアを叩いて
「おねがい……っ、します……あけて…っ」
漸く近付いてくる足音に、安堵仕掛けた時
開いたドアの隙間から、赤い顔したお父さんが『酒は?』と聞いた
抱えた上着をギュッと握り…
瞳が泳いだ僕の姿を、足元から頭のてっぺんまで、確かに見たのに
次の瞬間、ドアは閉められ、玄関の灯りが消えた
スッと目の前に、シャッターが降りたように
視界が真っ暗になる
幾宛もなく、ただ暗闇をさまよい
近所にある教会で足を止めた
もう、限界だったんだ
敷地内の古いマリア像の片隅に倒れるように身を寄せ
ゆっくり目を閉じると
身体中を支配する痛みが、和らぐような気がした
ズリズリと身体が滑り落ち、地べたに丸まると
シンとした張り詰めた空気に包まれる
ああ、僕、……死んじゃうんだなってわかった
どうしてかな
全然、怖くない
もしかして僕は、ホッとしてるのかもしれない
ああ、だけど
僕は悪い子だから、天国には行けないかな
こんなに汚いし、きっと無理だろうな
ぼんやり……そんなことを考えながら
眠くって
眠くって
目蓋を閉じた
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