爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇
第5章 悪意 中國山地
今、誰と話していた? 兵介は途端に身を翻し、来た道の方を向き直した。だが、誰もいない。
「思い込み過ぎると、不意に応じられんぞ。気を付けておくべきだ」
右斜め後ろ。兵介はハッとしてそちらへ体を返した。そこに男がいた。
「若人よ、懊悩は過ぎれば命を削る。これは先達からの忠告だ。心に留めておくといい」
「誰だっ!?」
兵介は身構えた。対する相手は長身であり、恐らく、2メートルに少し足らない程度の筈だ。加えて着痩せしている。
どこの巨人連隊帰りだ。兵介はそう思った。
「俺を敵と見るのなら、無防備に過ぎるぞ。小人、せめて礫でも握れ」
「俺の背が低いんじゃない」
男に身構えた様子がない。男は表情も変えず、
「特段、俺の背が高い訳ではなかろう?」
そう惚(ほう)けた。
敵意を兵介は感じられなかった。身の構えを気持ち緩めた。
「……そういう事にしておく。他所で言って恥でもかくんだな」
「ふうむ。皆、そう言うのだ」
兵介は何も言いたくなかった。だが、聞かねばならない事がある。
「どうして俺が考えている事がわかった。それに誰だ、あんた」
「問いは一言に一つまでとしてくれ。答え辛い」
「なら、あんた誰だ」
兵介は少し苛立った物言いをしたが、相手は気にも留めなかったようで、そのままの顔で答えた。
「そうだな…城井宗房(きい むねふさ)とでも答えておこう」
「とでも、ってなんだ」
「名は幾つか用意してある。どれも紛れも無い俺の名だ。城井宗房はその幾つかの一つだ」
「何を……」
「君が知るべき名はこれのみで良い筈だ、山路兵介」
兵介は抑揚もなく勝手に人の名を呼んだ事に当然の違和感を持った。兵介はこの男を知らない。
「君という人の前で、君に関わりを持つ俺は紛れもない城井宗房、唯1人だ。それ以外に関わりを持たない事を誓おう。尤も、耳にしたとして、俺と認める事など出来ぬだろうがな」
「ハンドルネームかなんかとでも考えておこうか」
「……そういうのは造詣が浅くてな。良くはわからん」
「もういい、次だ」
兵介は突き放すように言った。僅かに宗房の口元が緩んだようにも見えたが、気に留めない事とした。
「どうして、俺の考えがわかった? 口になんて出してない筈だ」