第7章 恋をした。
夏野菜が艶やかに実夏。
は汗をぬぐいながら一生懸命に野菜を籠いっぱいに収穫していた。
そろそろお茶にしましょうかと言う彼女の頬には泥がついていた。は一瞬空仰いで、パタパタと縁側に来ては微笑む。
「少々お待ちください、来客のようです」
そう言って何故か野菜を数個手に取ってビニール袋に入れていた。
それを手に玄関に走る。
カカシはため息をついていた。
「なんだい、構ってもらえなくてさみしいのか?」
なんて父さんは言いながら笑うけど、彼女の自分に対する態度は出会った時から寸分も変わらなかった。
「そういうわけじゃないよ」
強がってはみたものの、彼女は不思議な人に思えた。
実家に数日泊まることも増えたからか、彼女の言動や行動が目に付く。
いつも笑顔を絶やさない彼女。
「はね、もう何度も死んでいるんだよ」
「…は?」
父の視線は美しく美味しそうに輝くトマト。
「あの子はね、幸せになれない子なんだよ」
そう言って独り言のように言っていた。
血統書つきの彼女は死を待たれるだけ、人間とも人狼とも繁殖を許されはしない。そして、彼女がそれをした場合殺されるだけ。
里の掟で死んだ彼女、里のために今まで生きてきた、汚い仕事ばかりをしてきた彼女。
父がやっていることはどれだけ残酷なことか。
まざまざと実感した。
この地域は彼女の母親が有名で、人狼にはとくにいい場所ではあった。
彼女の強さと恐ろしさより、彼女の儚さ悲しみをよく知っていた。どこまでも深く彼女を愛する人ばかり、そして、その彼女を引き取った父は尊敬と敬愛を向けられた。それだけ人狼というものがデリケートなものなのだろう。