第4章 彩花。
目が覚めると、静かな部屋で何処にいるのか分からなかった。
身体が軽く熱が無いのだと気づくまでにはそう時間はかからなかった。
外を見ると雪が反射して美しく照り返している。
部屋着を羽織り、窓を開ける。
「あぁ、そうね、藍家にいたのよね」
「そうだよ、おはよう八千代」
「まぁ!おはようございます」
てくてくと月に駆け寄るが、案の定躓き飛び込む形になる。
「大胆だねぇ」
「す、すみません⋯あの、ふふふ」
「随分と休んでいたからね、うん、熱もない様だ」
「えぇ、今日はどちらにお散歩に行くのですか?」
キラキラと光る瞳。
月はデコピンをして抱き抱える。
「千代、君は忘れてるよ。妃だろう?この国の妃は君だけだよ」
千代は眉を下げて思い出したように苦笑いを浮かべた。あぁ、そんな顔をさせたくなかった。
口を開こうとした千代を見て首筋に顔を埋める。
「行かなくてもいいんだよ⋯、ずっとここに居ても良い。私は大歓迎だよ」
「私は⋯妃⋯ですから⋯」
手が震えていることに気がつく。
なんだか、ほっとしてしまう。あれほど無機質だった人が少しの言葉に揺れている。
それが、嬉しくて顔が綻ぶ。
「私はね、君を匿って一生を過ごしても構わないんだよ」
目を丸くぱちくりぱちくりする千代。
真っ赤になると、俯きもじもじしている。
顔を上げるとえへへと言うもんだから愛らしい。
「わ、私はっ、き、妃ですから!」
「うん、だから、ここに閉じ込めちゃおうか」
「だ、ダメです。月、いけません」
月は驚いた。彼女はやっぱり判別していたのだと。
「あぁ、王に返すなんてやっぱり惜しいよ、ここにずっと住めばいい、不自由はさせないよ」
「いけません!私は、仕事がまだあるのですよ、応援してくれないのですか?」
「うん」
驚き言葉に詰まる。
「だ、だめなのですか?」
「そりゃあ、私は君を閉じ込めてしまいたいからね、だから、いつでも帰ってきて。君が辛くなる前に私のもとに帰ってきてとしか言えないよ」
その言葉に真っ赤な顔をしてぎゅぅっと月の頭を抱きしめる。
軽すぎる姫君が耳に小さくキスをする。
「いけない妃だね」
向日葵のように笑う彼女が愛らしい。