第13章 おいしいひととき
「最近櫻井さん来ねぇなぁ」
大将が心配そうに言った。あの日から1週間、翔さんは一度も店に来ることはなかった。
「忙しくなるって言ってたから」
ほんとにそうなら心配だな…1週間何食べてんだろ?この前聞いたときは『コンビニかな』って言ってたし。絶対体に良いもの食べてなさそう。大体毎日10時過ぎまで仕事ってこと事態心配だよ。
結局今日も翔さんは店に来なかった。
「お疲れっした」
「気を付けて帰れよ」
「はい」
店を出て近くのコンビニに寄った。コーヒーを手に取りレジに並ぼうとしたらお弁当コーナーでずっと会いたかった人の横顔を見つけた。
「翔さん」
「え?」
びっくりしたようにこちらを振り向き俺と目が合うとふわっと笑顔を見せてくれた。
「あぁ潤くん、今バイトの帰り?」
「うん、翔さんは仕事帰り?」
「そう、あれからやっぱり忙しくなっちゃってずっと残業続き…大将の料理が食べたいんだけど時間に間に合わなくて」
眉毛を下げる翔さんはほんとに残念そうに見えた。
「じゃあさ、俺届けてあげようか?」
「え?」
「大将に頼んで弁当にして貰うからそれ届けてあげるよ」
「いや、でもそれは悪いよ…大体大将に聞いてないのにそんな勝手に」
「じゃあ、大将がオッケーならいい?だって大将も翔さんが来ないから心配そうにしてたよ?」
「そうなんだ…申し訳ないなただの客なのに」
「ただの客じゃないよ、翔さんは上お得意さまなんだから」