第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
自分たちの周りには、敵がまだ30ほどいた。2で割ってもまだ15人も残っている。
そして雅はすでに、16もの敵を仕留めていた。
そこらへんに血を流した死体が転がっていた。
「これ、全部お前が……」
この光景を見ると、あの時の雅の笑った横顔を思い出してしまう。
「少ししんどかったが、銀やヅラはもっとしんどいはず」
こことは別の山、永禄山で囮役を引き受けて、今でも戦っているはず。
奴らがボロボロになって帰ってきたとき、誰が治療するんだ?
私はくたばるわけにはいかないとはいえ、正直奈落もかなりのやり手で、ここまで持ちこたえられたのは奇跡かもしれない。
「……今日ばかりはした方がいいかもね」
「何がだ?」
「“死ぬ覚悟”」
「!」
普段の戦と違って、今日の彼女は何故か弱気だ。
今まで多くの命を懸命に救って、“なんとしても生きろ”と励ましてきた本人なのに。
「そんなんより“生きる覚悟”でもしとけ。何人も生かしたてめェが洒落にもならねェ。「私は死神だから死にァしねェ」って言ったのは、どこの死神さんだ?」
俺がそう煽っても、いつもとは違って雅はなかなか口を開かなかった。
「…何でそんな弱気なんだ?まさか怖ェって言うんじゃあるめー」
「そうだ。怖いよ。耳障りな烏の鳴き声のおかげで、今夜は眠れなさそう、なんてね」
死神と皆に怖がられてきた雅。
怖いもの知らずみたいに戦場を駆け抜けてきた奴が、“怖い”なんて。
冗談っぽく言ったようだが、冗談には聞こえなかった。
背中合わせで顔が見れないが、今雅はどんな顔をしているのか。
「……」
俺は背中合わせのまま、余ってる左手で雅の余ってる右手を握った。
「!」
「てめェがそんな弱気でどうする?お前はそんな弱くねェはずだ。昔、俺から見事に1本取った女がそんなんじゃ、俺のプライドが許さねーぜ」
雅は高杉が見えないところでフッと笑い、強く手を握り返した。
(なら、その負けず嫌いさんに負けないよう、私も期待に応えないとな)
互いに、生き残る覚悟ができた。
高杉と雅は背中を任せて目の前の敵に向かった。
高杉の介入のおかげで、敵との対峙が体力的にも精神的にも楽になった。