第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【風、誘われるままに】
優しく、しないで…。
何故、私に優しくするの…?
ダメ…。
壊れてしまう…。
「っ、ハァ、ハァ、っ…!」
苦しい…。
それに、まだ治まらない私の身体。
土方さんにされたのは、訊問と言う名の凌辱だった。
それに気付いたのは私の身体が全く言う事が利かず、意思とは関係無く彼を求めた時だった。
指が触れるだけで跳ね上がり、その部分から広範囲に痺れが巡る。
きっと私が頂いた食事に薬を盛られたのだろう…。
「っ、くっ…ハァ、っ…!」
ダメだ。
走ったせいで薬が更に回って来た。
隙をついて土方さんから逃れたのは良いのだけれど、此処は何処だか解らないし、そろそろ本当に何とかしないと意識が今にも無くなりそうだ…。
私は誰もいない場所を求め引き摺る様に歩き始めた。
暫く歩くと辺りはしんと静まり返った河原へと辿りついた。
聞こえるのは川のせせらぎ。
さっきの喧騒とは大違いでこれならゆっくり出来ると思い、陰に隠れる様に身を潜めた。
「っ、ハァ…ッ!」
どうしたらいいの?
こうして考えている時間が長くなればなる程に私の身体は熱に侵されて行く。
わたし、無理かも…
そう言うと僅かに残っていた意識は霞んで行き、私は先程の熱を余韻に浸り、手は胸元へと…。
「ほう…。風に誘われるまま、来てみれば…」
ざっと河原の石を踏みしめる音と共に聴こえた声。
胸元に置いてあった自身の手はその動きを止めた。
「…っ!」
何時もは直ぐに感じ取れる気配も、今は全く役には立たずに簡単に私のテリトリー内に誰かの侵入を許してしまった。
その声で我に返った私は少しだけ蘇った意識を駆使してその声の方へと顔を上げる。
「…悪戯にしては良く出来ている」
偶には風の悪戯に付き合うのも悪くは無いな…。
逆光で顔はハッキリとは見えなかったが、この鼻にかかった甘い声の持ち主は私の知っている限りではあの人しか居ない。