第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【花、雪と共に…。】
季節はずれの桜が舞う。
優雅に、
美しく、
そして、儚く…。
私の頬に一つ、また一つと落ちては消え、それが花弁ではないと気付くのはもう少し先だ。
私は、あの世界で死んだ。
なのに、何故…。
「生きて、いる…」
死にたかった。
あのまま、あの人の手で死ねるのなら本望だと思っていたのに、
もう、生きている意味など無いのに、
何故、私を生かす。
今にも閉じそうな瞼に力を入れ、美しいと思い込んでいた空を見る。
空はコールタールの色。
舞い散る花びらは薄汚れ、それは花びらではなかった。
冷たい…。
あぁ、雪か。
通りで冷たい筈だ。
あの時、雪なんて降っていただろうか。
確か、あの時はバケツをひっくり返した様な雨が降っていた筈だ。
そう思い出し、視線を己の手元に移すと着物の袖がびしょ濡れになっている。
なのに、辺りは薄らと雪が積もっていた。
どう言う事だろう。
此処は何処なのか…。
まだ、あの世界で有るのなら、
もう一度、貴方に逢って謝りたい。
「まだ、泣いているのかな…」
今ある力で空に向かって手を伸ばす。
あの時は繋げなかった手を、今度こそは…。
そこで私の意識は途絶えた。
揺れる、ゆれる。
廻る、まわる…。
冷たい花びら舞い散る中、私の記憶は全てを忘れる。
あの世界で過ごした事、
あの世界で愛した事、
あの世界で私を愛してくれた…
全ての事を…。
お前にはそんな物必要ない。
独りで生きて、死ね。
そう言われている様な気がする。
誰に?
分からない…。
何故ならば、
私は…。