第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【forty-fourth.】
あぁ…。
私は、
取り返しのつかない事を…。
左近に殴られた私は無意識の内に城の外に向かっていた。
途中、何度も足を詰まらせては地に這い、それを繰り返しながらこの場所、彼女と良く来た小さな湖に辿り着いていた。
「結局、私は…」
自ら断ち切った筈の想いは、さ迷う事も出来ずに、また彼女と言う想いへと辿り着いてしまう。
この様に、無意識でも…。
どれだけ彼女に依存して居たのかこれで良く分かった。
本当はあの様な事をしたかった訳ではない。
ただ、彼女が心配だった。
本の少しでも良い、私を見て欲しかっただけだ…。
なのに、私の想いは闇へと閉ざされ、私ではない私が囁く。
" コロシテシマエ "
" ケガシテシマエ "
" ハイジョセヨ "
…今となっては言い訳にしか過ぎない。
いつか家康にも言ったような…。
「言い訳なぞ、見苦しい…」
今の…
私だ…。
私はその湖のへりに両手をつき、湖を覗き込んだ。
「…酷い様だな…」
静まった湖の水面に私が映る。
それと同時に殴られた頬が腫れている事も知らせた。
本当に痛いのは私ではない…。
私は彼女を傷つけた。
最愛の人を傷つけた…。
謝って済む問題ではない。
どうしたら…
どうしたら、良いだろうか…。
覗き込んだ水面に何処からともなく一葉落ち、寂しく波紋を広げる。
映す私の顔が歪み、まるで今の私の心境を表しているかの様。
歪んだ水面から視線を上げ空を眺めると、さわり、と湿った生温い風が私の頬を掠めた。
それは私に何かを伝えようとしている、そのような気がした。
だが私は彼女の事で頭の中が埋めつくされており、その風を受け流していた。
未だ歪む水面を見つめ、再び彼女の事を思う。
彼女を思うあまり、私は気付かなかった。
広がる波紋がもう一つあった事…
そして、この事により後悔するのはもう少し先の話…。