第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【※forty-first.】
あと数日で半兵衛様がお戻りになられる。
最近の名前様は私が何を語ろうとも上の空であった。
空を見つめては、ため息の繰り返し。
私と目が合えば多少は微笑むが、直ぐに空を見つめる。
私は名前様にその様な顔をして欲しくはないのだが、その思いは彼女には届かない。
もう、私には貴女の愛らしい笑顔は見せてくれないのか…。
私の心には今は虚無感しかなかった。
「…今宵は酷く冷えます」
さぁ、部屋へ戻りましょう。
名前様はあれからずっと縁側に腰を降ろし、空を眺めていたのだ。
特に何かをする訳でもなく、ただ、空を眺めるだけ。
いつの間にか日が落ち、時に冷たい風が私達の頬を掠める。
私は名前様に声をかけてみるも、彼女は空返事だけでその場を動こうとはしなかった。
このままでは風邪を引いてしまう、そう思った私は失礼ながら膝の裏に手を差し込み、彼女を抱き上げた。
「っ!」
急に抱き上げた事に驚いた様で、自然と名前様の腕が私の首に絡まる。
着物の袖が捲れ、白く絹のような滑らかな素肌が覗き、私の首に夜風に晒され冷たくなった素肌が触れた。
こんなにも冷たくなるまで何を思っていたのだろうか。
その胸の内は彼女しか解らない。
「一人で戻れます…」
降ろして下さい、と彼女は言う。
だが、私は何時までも名前様の温もりを感じていたくて、無言で足を進めた。
彼女は諦めた様にそっと腕を解き私の羽織の襟元に手を置いた。
" ちょっと…三成さん!恥ずかしいから降ろして! "
" や、やだ!そんな速さで走らないで下さいぃぃっ! "
解かれた腕を見つめ、昔の言葉の遣り取りを思い出す。
あぁ、もう " 昔の事 " になってしまったのだな…。
私は月のない空を見遣り、名前様を自室へとお送りした。
「此処で、大丈夫です」
ですので、降ろして下さい…。
そう、彼女は悲願する。
其処には拒否感があり、私は名前様の自室に入り込み、乱雑に名前様を敷かれた布団に降ろした。
「きゃっ!」