第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【thirty-eighth.】
「突然の訪問で悪いね」
毛利元就君…。
「竹中…」
何を今更抜かしおる。
間違いなく先の事であろうに。
我は心の中でこの狐めと悪態をつくが、感の良い竹中の事だ。僅かな間でも察し付くであろう。
見よ、現に張り付けた様な笑で我を見よるわ。
「ふっ…それはお互い様だよ。今は彼女の事は抜きにして」
今日は先日…あぁ、もうだいぶ経ってしまったが、同盟の組み直しと、ある人物が不穏な動きを見せていると言うわけだ。
そこで毛利君の力で彼をけしかけ、此方側へと誘って欲しい。
「その後は好きな様にして構わない」
時折茶を啜る音だけが響く。
この空間は我と竹中のみ。
厳重に人払いをし、竹中の話を聞く。
前に取り次いだ同盟の仕切り直しと言う事だ。
確かに綺矢が独断で豊臣へと去った事でこの同盟の話は無かったかの様に思われた。
まだ大きな戦はない故に、名前が無事ならばと思っていたが…。
そうか…。
「悪くはない。して、竹中。アレの無事は確保出来るのだな」
我はそう言うと竹中は先とは違う雰囲気で笑う。
「ふふ…。君もまた囚われた一人と言う訳だ」
勿論。そう言い妖しく微笑む竹中。
貴様もアレに囚われし一人。
あぁ、アレに囚われる人間は我らだけではない。
この他にも星の数ほど居るだろう。
あのニオイが物語っている故に、な…。
「その為に豊臣の養子となったんだ」
まぁ、その分危険も伴うのだが、僕や三成君、それに君が彼女を守れば良い。
「やはりあの噂はアレの事であったか」
豊臣に姫、現る…とな。
「噂は回るのが早いからね」
それに彼女には戸籍がないから色々と面倒にならない内に手を打っただけだよ。
竹中は再び茶を啜った。
その事については我が良く知っておる。
何せ、我の目の前に降り立った訳だ。
「話が早くて助かるよ、毛利君」
商談成立だ。
そう言い、竹中は腰を上げる。
「あぁ、近い内に大谷君を此方に寄こす。彼は優秀だからね」
そして竹中は我が用意した客間へと去って行った。
我の望む物は毛利家と安芸の安泰よ…。
それと、名前…そなただ。
「名前…愛とは、何であろうな…」
我は竹中が去って行った扉を見つめ、独り呟いた。