第7章 無意味なひと
一方のセバスチャンはソファの横に立ち、真っ直ぐとホールを見つめていた。
ホールでは男女がワルツを踊っており、ふわりふわりと舞うドレスの裾が綺麗だった。
「リュシアンナ伯爵、一曲願えますか?」
ようやく誰かに声をかけられて私は顔をあげる。
すると、森林に光が差し込んだような色の瞳に繊細な絹のような金髪。差し伸べられた手は白く細いが、どこか男らしい。
「喜んで、ヒューズマン公爵」
その手に手を重ねると一気に体が軽くなり、ワルツの旋律へとのせられた。
「本日は足を運んでいただきありがとうございます。何かホールが騒がしいと思えば伯爵だったとは」
目をやんわり細めて公爵が私と目を合わせる。私も軽く会釈をした。
正直言って居心地は良くない。裏の社会を知りそれを利用する者と裏の社会を統べる者が踊るワルツほど恐ろしいものはない。
その気になれば私も公爵もこの夜会を赤く染めあげられる。
公爵のステップの取り方はすごく私としては踊りやすい。
踊っている間、ずっと公爵は私の目を見ていた。私もそれに応えた。
音楽が止まり、束の間の休息の時間に入ると公爵はそそくさと近くにいたウェイターからワインを二つとり、その内の一つを私に渡した。
濃い赤色のワインを一口含むと口の中は果実を一度にたくさん食べた感覚になった。