第14章 あなたへの恋文(家康)
愛に、書物を使って読み方を教えていた相手…。
それは、まだ愛が安土に来て間もない頃のことだ。
読み書きが出来ないと困っていた愛に、
御伽草子のような物から…と三成が選び、読み方を教えていた。
(秀吉さんの指示だったって言ってたけど…)
家康の機嫌の悪さに、愛は困った顔をしながらも、
「文字を書きたいって前に言ったら、政宗が教えてくれるって…」
一番聞きたくない名前は回避できたが、それでも出て来たのは
愛にあからさまな好意を寄せている人の名前だった。
『ねぇ、なんで俺の字が綺麗って褒めたのに、教わるのは別な人なわけ?』
至極全うな家康の言葉に、愛は更に困った顔をする。
「本当は家康に教えて欲しいけど…、今凄く忙しいでしょ?
信長様に視察の命令されてたし…。家康と会えない間に、勉強できればって…」
『俺が帰ってからじゃダメなの?』
本当は家康に教えて欲しいと言われて、悪い気はしない。
しかし、愛の言っていることも事実で、
あと十日もすれば、秀吉と共に東の小国への視察を命じられていた。
「家康がいない間、そうやって勉強してたら気がまぎれるかなーって」
あぁ、なるほど。
家康はやっと腑に落ちる。
自分がいない間に、寂しさを紛らせたかったのだ、と納得する。
(ちょっと…何この可愛い理由…)
納得したからと言って、素直に可愛がれる術は残念ながら持ち合わせていないのも事実。
『はぁ…。視察ったって、そんな長く行くわけじゃないでしょ。
まぁ、じゃあとりあえず、今日から始めたら?』
「え?教えてくれるの?」
愛の目がキラキラと輝く。
『とりあえず、これ見ながら真似して書いて見なよ。
それ渡してくれれば、添削して返すから』
「そっか、それだったら家康の空いてる時間に見てもらえるね!
あ、まって、じゃあそのお手本は借りるけど、内容は…
家康に当てた手紙にするね!その方が…勉強し甲斐がある…かも」
照れて真っ赤になった顔で言う愛の頭を撫でながら
『馬鹿じゃないの…』
という家康も頬を赤く染めていたのだった。