第89章 夢路
「……まだ不安か?」
ふるふると首を振って目を伏せる。
「そうか…なら良い。」
投げ出されていたこいつの手を握り、指を絡め胸に抱く。すると、黒く長い睫毛が揺れ、もう一度その瞳に俺を映した。
「‥伽羅ちゃんは優しいね、私が小さくなった時もこうしてくれた。」
握った手に目を落として、ありがとうと小さく囁く。
ありがとう、か。あんたに感謝される様な事はした覚えがないのに可笑しなもんだ。
逃げられない言葉で囲んで、他を選べない選択肢を投げただけなのに、どうして感謝なんかするんだろうな。
あんたが好きで、欲しくて、手に入れたいだけなのに。
……俺の主はとんだお人好しだ。
握っていた手を離し、両手でしっかり抱き締めてそのまま回転しながら寝転がる。