第5章 glass heart【赤葦京治】
「あ、汐里だけど。今いい?」
『いいよ』
「っていうか、家?」
『うん』
「あのね、親戚から苺が沢山届いたんだけど、ツッキー食べない?お裾分け」
『苺?』
「うん。好きだよね?」
『好きだけど…』
「じゃあ今から持ってくから。待っててね!」
家にいるなら丁度いい。
パックに詰められた苺をビニール袋に入れ、ツッキーのアパートへ向かう。
歩いて数分。駅への行き帰り、毎日通る場所。
一本道の角を曲がったところに、ツッキーは立って待っていた。
「ごめんね、休みなのに」
「いいけど…苺ってそれ?」
「うん」
私がぶら下げたビニール袋を見て、ツッキーの眉間が僅かに動く。
「ちょっと多くない?」
「…そう?」
袋の中には苺が三パック。
「食べ切れずに腐らせたら悪いから、ひとパックだけもらう」
「えー?私なら一瞬で食べれるけど」
「僕は無理だから」
「そう?じゃあ…」
袋の中からひとつ取り出してツッキーに渡そうとしたところで、こちらに向かって声がした。
「月島く~ん、よかった!今日は居たわね!」
ツッキーの向こうからにこやかに近づいて来るのは、年配の女の人。
「お見合いの話なんだけどね、お薦めのお嬢さん二人いるの!月島くんの好み聞いとかなきゃと思って!」
……お見合い?
「あの…大家さん、僕ホントそういうのいいんで…」
「やぁねぇ!遠慮しなくても……あら?ごめんなさい、月島くん大きいから見えなかったわ。お客さん?」
大家さんだと言う女の人が、私に視線を移した。
次の瞬間、ツッキーの手が私の肩を抱く。
「!?」
な…っ、急に何!?
驚いてその顔を見上げると、ツッキーは女の人に向かってそれはそれは綺麗な作り笑いを浮かべていた。
「この前言いそびれちゃったんですけど。僕、彼女いるんですよ。…ね?」
何か相槌求めてくるんですけど!
それに見たことないような爽やかな笑顔!!
そんな顔で「ね?」って言われても…。
でも…何となく、事情は察した。
「うん…」
…これでいいんでしょ?
「そういうことなんで、せっかくですけど」
「あら~、そうだったの…。残念だけど仕方ないわねぇ…」
「すみません。ほら汐里、部屋行こう?」
「ハイ…」