第5章 glass heart【赤葦京治】
「ねぇ、京治…」
少しだけ声色を変えた遥が、目の前のグラスに手を添えた。
中に入ったカクテルに向かって、小さく声を出す。
「今、彼女…いる?」
「…いないよ」
「ほんと…?」
「うん」
「じゃあ…あの…」
ほんの少し顔を赤くしながら、頬に落ちる髪を耳にかけて、何か言おうとしている。
自分で言うのもなんだけど、こんな遥を見て何も感づかないような、察しの悪い人間じゃない。
「今度、飲みにでも行く?二人で」
俺の言葉で顔を上げ、遥は笑顔を浮かべる。
そして少し恥ずかしそうに、小さく頷いた。
そうだ…あの頃の俺も、同じこと思ってた。
遥のこんな仕草が、可愛らしくて好きだって。
それからの俺たちはマメに連絡を取り合うようになり、デートも数回。
大人になった遥の新たな一面に心を動かされたり、昔と変わらない部分に和んだり。
距離が縮まるのは、自然なことに感じた。
別れた原因だって、深刻な何かがあったわけじゃない。
お互い別々の高校に進学して、俺はバレー部に入部した端から練習漬けの毎日で…。
会える時間が極端に減り、段々疎遠に…って感じだった。
まるであの頃みたいに急速に惹かれ合い…
俺たちは時を経て、また恋人同士になった。