第5章 glass heart【赤葦京治】
楓の葉が色づき、秋も深まった頃。
中学のクラス会が行われると連絡が入った。
幹事のうち一人は、同じバレー部だった人物。
返事を保留にしていると「遥、出席するってよ」と、懐かしい名前が引き合いに出された。
会いたいか、会いたくないか。
そう考えた時、会ってみたい、と思った。
連絡先などもちろん知らないし、この機会を逃したら大袈裟な話ではなく、一生会わないままかもしれない。
今、何をしているのか。
元気でやっているのか。
15歳の頃の淡い恋を懐かしみ、俺らしくもなく遥に会えることを少しだけ期待して…
年が動く直前、俺はその場所に立っていた。
「京治?」
柔らかな彼女の声を聞いて、一気に少年時代に立ち戻ったような錯覚に陥る。
振り向かなくても、背後にいるのが誰なのかはわかった。
俺のことを名前で…しかも呼び捨てにするのは、クラスの中で彼女だけだったから。
ゆっくり振り返ってみると、俺を見上げた遥がふんわりと笑う。
「やっぱり!久しぶり」
「久しぶり。元気だった?遥」
「うん。京治、頭飛び抜けてるからすぐにわかったよ。あの頃より背高い気がする」
「あー、高校入ってからも伸びたから」
「そうなんだ。今何してるの?」
そんな他愛もない会話を、何年ぶりかに交わす。
落ち着いた話し方とか、控えめな笑顔はあんまり変わってないけれど、でも……綺麗になった。
元クラスメイトと飲む傍ら遥と話をしていれば、自然と記憶があの頃へ遡る。
「京治と付き合ってた頃が一番楽しかったな。受験生だったけど、お互いの誕生日もクリスマスもバレンタインも、時間作って一緒にいたよね」
「そうだったね」
「誕生日にもらったネックレス、まだ持ってるよ」
「え?ちょっと恥ずかしいんだけど…。オモチャみたいなもんだよね、それ」
遥が当時好きだったブランドのアクセサリー。
でもプレゼントしたのは、中学生が買える程度の値段のもの。
もちろん、プラチナだとかダイヤだとかではない。
「私にとってはずっと大事な宝物だよ。絶対、手離したりしないんだ」
そう言って笑ってくれる遥。