第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
なに……それ……。
何か困る。
そんなストレートに気持ちをぶつけられても、どんな顔していいのかわからない。
「梨央さん、顔赤い」
「…からかわないで」
「からかってません。可愛いな、って思って」
「だからそれ止めて…」
「何で?」
「心臓に悪いから」
「ふーん。俺、梨央さんの心臓を刺激してるんですねー。嬉しいです」
もう何も言うまい……。
私も仕事に必要な調理道具を取り出して、作業にかかる。
黙々と手を動かしていると、小さくため息が聞こえた。
「なーんか喋って下さいよ」
「……」
確かに今まではこの時間、二人きりで他愛ないお喋りをしていた。
でも、改めて何か話せと言われても…。
「あ…」
「はい?」
「優くんお姉さんもいるんだね。この前、ほら」
「あぁ、兄貴の上に一人いるんですよ。近所に家族で住んでて」
「じゃあ、花火の日に一緒にいた女の子…」
「姪っ子です」
「そうなんだ。親戚の子かな?とは思ってたんだけど。面倒見いいんだね、花火に連れてってあげるなんて」
「まあ…何でか懐いてくれてるんで。あれでも可愛いんですよ。梨央さんこそ、女二人で花火なんて寂しくないですか?」
思い出したように、眉を下げてクスクス笑い出す優くん。
意地悪だ…!
「花火でもクリスマスでも、女二人だってちゃんと楽しいんだからね!」
「はいはい」
まだ笑いながら、口先だけであしらわれる。
「ほんと今までネコ被ってたんだね…」
「その方が人間関係円滑でしょ?」
ジトッと睨んでみても、大して効果はないみたい。
まあ、優くんの言い分もわかるよ?
私も社会に出てから、作り笑いとか社交辞令とか、それなりに身に付けたつもりだし。
「それに、いい人っぽくしてた方が梨央さんへの印象いいだろうし」
「……」
「黒尾から乗り替えてくれるかもしれないし?」
「ちょっと…」
またそんなこと言って…。
昨日のアレ。
本当に、酔った勢いでも冗談でもなかったんだ…。
「でも、作った自分を好きになってもらっても意味ないんですよね。よく考えたら」
「え…」
「梨央さんに振り向いてもらえるためなら、手を尽くします」
少し首を傾げて、優くんはいつもの色気を帯びた笑顔を作った。