第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
気まずい沈黙。
先を見透しているような目の前の視線。
少し、怖い…。
「離して…」
何とか喉から声を出した。
優くんは素直に私の体を解放したあと、ソファーの背もたれに身を預け、肩でひとつ息を吐いた。
「…水、持ってくるね」
優くんの顔を見ないようにして、部屋の扉へ体を向ける。
「ふっ…、お人好し」
小さな声が耳を掠めた。
でもそれを聞き返す気にはなれず、二人きりの部屋から抜け出す。
こんなに積極的にアプローチされたの、初めて。
優しくて紳士的な人だと思ってたけど、恋愛に関しては違うのね…。
厨房の冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出し、一本は自分の喉を潤すためにその場で開ける。
手首を掴まれた時から忙しなく打ち続けている鼓動を、落ち着かせるように。
冷えた水が喉から胸元へ伝わっていくのを感じながら、大きく息をついた。
それからまた、少し緊張しつつ優くんのいる部屋へ。
ゆっくりと扉を開けたその先。
彼はソファーに横たわっていた。
唇を閉ざし、目元は腕で覆って…
寝ちゃったの…?
テーブルの上にペットボトルを置き、小さく声をかけてみる。
「優くん…?」
「…ん?」
あ…起きてた。
腕をずらして私を見ると、起き上がろうとソファーから足を下ろす。
「いいよ、寝てて」
「いえ…ありがとうございます」
座ったままジッと私を見上げてはくるけれど、何も言わない。
う…気まずい……。
「えと…帰るね」
一人にしても大丈夫そうだし、きっと優くん眠いんだろうし。
何より、さっきあんなこと言われたこの空間に二人きりとか…心臓がもたない。
表情を変えずに黙っていた優くんは、ふと意味あり気に微笑む。
「梨央さんも泊まってけばいいのに」
「……」
何言ってるの、ホント!
いきなり豹変した優くんに色々付いていけない…!
「あ…っ、私、帰る!戸締まりしっかりね!おやすみ!!」
バッグを引っ掴んで、ろくに優くんの顔を見ることなく逃げるように店を出た。
「はぁ…っ」
一気に襲う脱力感。
まさかあんなこと言われるなんて。
次にどんな顔をして会ったらいいのか…。
翌日の私はそれを思うと、せっかくの休日なのに、全く休んだ気になどなれなかった。