第14章 【拾壱】岩&風&霞(鬼滅/最強最弱な隊士)
俺に根付いた包括的欺瞞の常習性は、里で散々鍛え上げられた邪悪な性質ではあったけれど、お館様の麾下に入って悲鳴嶼の元で過ごすとなってからは特に善く改めた部分だった。
子どもの嘘を恐れる余りに疑り深い人が傍に居るのだ、身の上の清廉潔白に努めて己を律する以上の急務は無い。大恩ある彼にだけは絶対に嫌われたくなかったから自然とそうなった。
霞柱殿に俺の努力が理解できる筈が無かったし、単独任務ばかりで実力の程度も為人も見えて来ず、嘗ては傲慢だと噂が蔓延った得体のしれない隊士など信用出来ないのは当然だ。誤解も仕方ない。だからといってわざわざ牙を向けてくるのならば、此方の態度も相応に変化するというものだ。
「話は以上ですか。務めに戻りますので反論あれば後ほど拝聴致します」
細い手首を掴み返して引き剥がした一瞬、一度だけ霞柱殿の顔を流し見た。部下が生意気に噛み付いてきたのだから憤怒の表情で睨め付けているかと思いきや、磨り硝子のような瞳を潤ませて今にも泣き出してしまいそうな表情をしている。
例えるなら、郷里を懐かしむ隊士に良く見られる、残してきた親兄弟達や、喪った家族を偲んで想うような、人情味に溢れた表情だろうか。
生まれた年月も生まれた土地も異なる霞柱殿に、ましてや接点など全くないと言って良いほど希薄な関係にある彼から、愛情さえ含んだ眼差しを向けられる謂れはなかった。
第拾壱話 終わり