第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)
「分かりました、行ってきます!」
「ん、良い子」
少し顔を近付けて微かに囁いてやると、彼奴の背後で有る筈の無い尻尾が勢い良く振られる幻覚を見た。頬を上気させながら輝かんばかりの笑顔を振り撒く姿は相変わらず眩しくて、目を細めてしまう。戦っている最中との齟齬が物凄い奴だ。
「おら、行け」
手指を解き、低い位置にある肩を掴んで身体を反転させ、背中を軽く押す。すると、首輪の鎖を穿ち留める杭を抜かれた犬のように猛然と駆け出した竈門は、あっという間に修行場を飛び出して、忽ち姿が見えなくなった。
何となく伊之助達も後を着いて行く気がして様子を見ていたけれど、疲労困憊の二人は、肩で息をしながら黙して竈門を見送っている。見送らざるを得ない、そういった風体だった。
(あー……)
この場で異端なのは竈門の方なのだ。あれだけの激戦の後も普段通りに会話して駆け摺り回る方が少々稀有。竈門は、死に直結しかねない大怪我さえ負わなければ、同期を優に凌ぐ化け物染みた基礎体力が有るらしい。
やおらに手庇を下ろして二人に近付くと、簡単な断りを入れてから胴腹に腕を回し、脱力する身体を軽々抱え上げた。早々に柱の皆々様へ修行場を明け渡さないと、また蟲柱殿辺りに「刻が惜しい」と叱られてしまうからな。用済みは退場だ、退場。
もはや暴れる体力も残されていないのか、口では「下ろせ」と低く恫喝してくる伊之助も結局は成されるがままであるし、カナヲも首根を噛まれて運ばれる子猫みたいに大人しく、沈黙を貫いている。
「なぁ、川に入れてやろうか。蝋の粉、落としたいだろ」
「川なんざ玉ジャリジャリ親父の修行で充分だ……」
「そうかい。ならこのまま天元に預ける。後は保護者に聞け」
「どいつもこいつも餓鬼扱いしやがって、屈辱だぜ……」
「ッはは、そういうところが可愛いんだよ、お前」
竹刀を肩に担いだ天元の前で、背中で御山を作る後輩達を下ろす。地に足をつけさせた途端に若干の蹈鞴は踏んだものの、しっかり下半身に重心を置いて立ち上がった。それでも膝が笑っている様子からして、俺が調子に乗って経穴を突き過ぎたかもしれない。ごめんな、伊之助、カナヲ。
第拾話 終わり