【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第2章 君のボールに恋してる
まったく使えない時計だ、としれっと口にする牛島に、開いた口が塞がらない。どこか吹っ切れた、清々しい会話の応酬。むしろ、ふてぶてしさが三割増しになっている気すらするその態度に、ああもうそうだよそれでいいんだよ! と思いっきり空を仰いで叫んだ朔弥を、牛島の微笑と柔らかな春の夜風がそっと撫でた。
◇ ◇ ◇
自室のベッドに腰掛け、タン、タン、とボールを軽く上げながら、牛島は今日一日を振り返る。
早朝のロードワークで軽く10キロコースを走ってから朝練、授業を六限まで出たあと部活に出て、自主練にまた10キロコースを走り終えて帰寮。風呂に入り、食事を摂って、先ほど数IIと英語の課題も終わらせた。
普段と変わらず身体も頭も充分に使ったように思っていたが、不思議と疲労感はあまりない。
むしろ、手足は軽く、思考も週末のこの時間にしてはすっきりとクリアなほどだ。ここ最近、どこか陰鬱とした違和感が胸の奥にあったのだが、それすら跡形もなく消えている。
ふ、と練習後の体育館で朔弥から受けた丁寧なマッサージの手の動きを思い出した。
メンテナンスが得意なのはボールに限らないのか。そんなことを考えながら、トン、とまた一つボールを指先で弾く。
高いトスひとつあれば、それでいい。
それさえあれば攻撃ができる、点を取れる。その考えは今も昔も変わらない。けれど――。
彼の上げたトスをもう一度、打ちたい。
トスン、とボールをキャッチして、牛島は両手に収まったボールを見つめて回顧した。