【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
とにかく、と手のひらでぐにぐにと頬を挟み抑えてくる及川が発する言葉を、ぷにゅぷにゅとその手の動きにつられて唇を押し出されたり戻されたりしながら朔弥は大人しく待つ。
思いっきり変顔にして笑ってやろうと思ったのに、こんなにしたって彼の放つ常人ならざる輝きには微塵も翳りを与えられない。
やだねぇこれだから何をやっても美形ってやつは。及川は面白くなさそうに舌打ちをして、そして適当な言葉を吐き捨てた。
「いーじゃん、女の子はみーんな可愛いよ? 来る者の拒まず去る者追わずで話くらいは聞いてみたら?」
ただし、さっきのみたいなヤバそうな男はやめときなよ、と釘を刺すもいまいちよく理解していない表情の朔弥に、一発頭突きでもかましてやろうと及川がぐんと額を近づけた。朔弥の丸く見開かれた黒い瞳いっぱいに及川が映る。
その後頭部を、がしりと鷲掴む大きな手。
「……何をしている、及川」
「いっ……?!」
「若利!」
ぱっと鮮やかに花開く朔弥の表情、そして頭蓋骨の悲鳴を直に聞きながら仰け反る及川の表情を交互に見た彼は、再度、同じ言葉を口にした。
「何を、している」
「痛い痛い痛い! 離してウシワカちゃん、の馬鹿! 馬鹿力!」
「わ、若利っ、及川くんの頭が砕ける!」
本気で及川が苦痛を訴えていると気付いた朔弥が、さあっと青褪め必死で牛島の袖を引いて制止する。
朔弥の訴えに前置きなく彼が手を離したせいで、思い切り良く地面に尻餅をついた及川が、涙目になって突然現れた襲撃者を激しく抗議した。
「なんなの! ねえなんなの?! 頭の骨軋んだ音マジでしたけど?!」
吠えた及川の声に耳を貸さぬ牛島が、朔弥の頬に手を添える。
「大丈夫か、紀伊」
「っ、こんのウシバカ野郎……っ!」
「ごめん、落ち着いて及川君……! ほら若利も謝って!」
「なぜだ、なぜ俺が及川に謝罪する必要がある」
「な、んでって……なんでそんな怒ってん……の?」
「何もされなかったか。それとも、」
ぎろりと鋭い眼光で、牛島は地面にうずくまる及川を射抜く。
「——何をした、及川」
地を這う低い唸り声が、びりびりと聞く者の体ごと脊髄を通る神経を震わせる。
殺気——、まさにそれは及川に身の危険を感じさせるほど、凄まじく恐ろしいまでの気の塊だった。