【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
さわさわと揺れる木漏れ日によって作られた影を纏わせる朔弥の切なる独白に、及川は耳を疑った。
「俺、女子から凄く嫌われるんだよ」
「あぁ?」
「ちょっ、なんでそんなガン飛ばすの?!」
「ごめーん、だって朔弥ちゃんてば笑えないジョークブチかましてくるからさー」
こめかみに青筋を立てた及川の形相は、まるで鬼のようだ。ツノが生えて見える、と汗を垂らした朔弥が、だって、と足元に視線を落とした。
「誰も近寄ってこないし、目を合わせてすらくれないし、……さっきみたいに」
初対面の人ならともかく、ほぼ毎日顔を合わせる同じクラスの子からも避けらる。
「嘘でしょ……え、じゃあ告られたりは?」
「それは、まあ、あるけど」
「あるのかよ!」
スパン! と華麗に裏手で肩にツッコミを入れてきた及川に、でもあれは違うと思うんだ、と力なく朔弥が笑った。
「一度も話したことがなくて名前すら知らない子に、突然されても……応えられなくない?」
及川君は違うの? 黒い瞳が興味深そうにくるんと向けられる。純真な子供のような、そのまっすぐな瞳が今度は木漏れ日の光を浴びてキラキラ輝く。
自分と異なり、女性から非常にモテる彼ならば何かスマートな答えを持っているのかもしれない。
今更、女子にモテたいとは思わない。元来そういうことには疎い方だったし、牛島といわゆる「お付き合い」を始めたばかりの今の朔弥に、彼女が欲しいという願望は皆無だ。しかしこうもあからさまに避けられたり、かと思えば突然見ず知らずの人間から熱烈なアプローチをされるというこの不可解な問題に対して、打開策は得たい。
期待に上気した真剣な眼差しに、う、とたじろいだ及川が、思わず背けそうになった視線を気合いで留めた。
「……君たちって、ホント似てるよね」
「?」
誰と? 何が? そう問う朔弥の頭がことんと右に傾く。自身の容姿が並外れていることを自覚していながらも、それを短所として捉える朔弥の発言には何の含みもないのだから手に負えない。
羨望や嫉妬、そして劣等感。そういった相手の負の感情を無意識に刺激する整い過ぎたその小さな顔を両の手で挟み込むと、ぐいと顎を持ち上げる。なされるがままの朔弥の目が、耳の後ろに回った及川の小指にこそばゆい、と眇められた。