【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第4章 一富士二羽ノ【正月番外編】
「おまえ、まともに料理なんかできんのか!」
「むっ、隼人も俺の腕前を信じないんだな?!」
「朔弥は上手いぜ、料理」
瀬見から援護射撃を受けた朔弥が、そうだぞ、と胸を張る。和食がちゃんと作れるのってたいしたもんだよな、と朔弥を讃える瀬見を見る牛島の視線、その温度が低い。そのことに気づく者はいなかった。
「なぜ知っている」
「なぜ、ってそりゃあ食ったことがあるからな」
「いつだ」
「いつ、って……若利?」
ひゅう、と冷たい風が二人の間を吹き抜けた。
◇ ◇ ◇
大きく膨らんだスーパーのビニール袋をキッチンにどさりと置く。雑煮用の具材と、二人分の昼食と夕食。やがて帰宅するであろう彼女たちは、夕食を済ませてから帰ると彼らがスーパーへ向かう途中に連絡を寄越していた。
「ごめん、若利。そっち重かったろ」
「たいしたことはない」
2Lのペットボトルを二本冷蔵庫へ入れた牛島が振り返ると、さっそく例の割烹着を着て袖を捲る朔弥が調理に取り掛かっていた。
昼食は何が良いか、という話になったとき、なんでも良いから和食が食べたい、と主張したのは牛島だった。しばらく和食続きだったのだから、そろそろ洋食や中華のこってりとした味が恋しくなる頃なのに、それでも和食にこだわったのは先程のやりとりが尾を引いていたのだろう。
なんでもいいって言われてもなあ、と少し考え込んだ朔弥は惣菜コーナーで揚げたてのトンカツを手に取って、ならカツ丼はどう? とにこやかに提案した。
ぐつぐつと煮える鍋の中に買ってきたトンカツを浸し、溶き卵を流し込む。並行して湯葉としめじの吸い物を作ったのは朔弥の希望だ。簡易な粉末タイプではない、昆布と鰹節で取った一番出しの出し汁が、優しい香りを放つ。
「お袋さん、きっと旨い飯作るんだろうな」
「旨い、と思う。なぜわかる?」
「だってさ、化学調味料とか一切置いてないし。手間暇かけてちゃんと作ってるんだろうなって。あ、ご飯炊けた」
自分の分好きなだけ盛ってね、と丼の器を渡され、牛島は炊飯器の蓋を開けた。ツヤツヤとした白米がピンと立っている。汁をかけた後のことも考えてやや硬めに炊かれたそれを見て、やはり料理が上手いんだろうな、と感心した。