第28章 沖縄旅行は海の香り
矢田さんが、
「ひなたちゃん」
と小声で声をかけると、岡野さんはこくんと頷いた。
「慰謝料込みで3百万。それ払えば半殺しで許してやる」
「え、カ、金は親父が出すから殴るのは…」
渚くんにちょっかいを出していた男の子ー…後にユウジ君という名前だと分かる…ーは半泣きでヤクザにすがっていた。
その横で動く影。
する、と音もなく動いたかと思ったら、岡野さんの足はヤクザの顔にピンポイントで飛んで行った。宙を舞うヤクザのメガネ。驚愕の顔で固まるユウジ。ヤクザが倒れた先にはイケメグがいて、
「よっ…と」
と言いながら頭を押さえた。どうやら今の攻撃でヤクザは気絶したらしい。
「すいませーん、店の人〜」
と矢田さんが普通を装ってお店の人を呼んだ。
「あの人急に倒れたみたいで…運び出して看てあげてよ」
「は、はい。ドラッグのキメすぎか? まったく…」
お店の人がヤクザを抱えて行く。これで、私たちの目標も達成できた。お店の人は扉から離れたから今がチャンス。
「…今のうち!」
「さ、キミもフロア戻って! 今の事、ナイショね!」
そして軽々と駆けていく。ユウジは呆然とそれを眺めていた。そんなユウジにそっと声をかける渚君(女装)。
「女子の方があっさりカッコいい事しちゃっても、それでもメゲずにカッコつけなきゃいけないから……つらいよね、男子は」
そしてニコッと笑った。
「今度あったらまたカッコつけてよ、できれば麻薬とダンス以外がいいな」
渚君は最後まで真実を言うことなく走っていった。
「………………渚ちゃん…」
ユウジは渚君が走っていった方をぽーっと見ている。
「…ねえ、ユウジ君」
「うわっ、だ、誰?」
最後までフロアに残ってた私に気が付かなかったらしい。惚け顔が一気に驚きの顔になる。……ユウジって、最初はうざキャラのはずなのに、見てて憎めないんだよな。だから少しだけ。
「渚、カッコ可愛いっしょ!」
にっこり笑うとさっきの渚君を思い出したのかまた赤面。私は我ながら意地悪いな、と思いながらも、それだけ言ってユウジに背を向けた。
「危険な場所へ潜入させてしまいましたね、危ない目に遭いませんでしたか?」
男子と一緒にいた殺せんせーが私達を労う。
「んーん」
「ちっとも!!」
女子はさっきの事を言わないよう決めたらしく爽やかな笑顔で対応するが、渚君は困り顔だ。
