第28章 沖縄旅行は海の香り
つまり透明な球体状態は1日で終わる。
「裏を返せば、結晶が崩壊するまでの24時間。先生は全く身動きが取れません」
……そりゃ顔だけしかないからな……。
「これは様々なリスクを伴います。最も恐れるのは、その間に高速ロケットに詰めこまれ、はるか遠くの宇宙空間に捨てられる事ですが…その点はぬかりなく調べ済みです。24時間以内にそれが可能なロケットは今世界のどこにも無い」
ドヤ顔で言った殺せんせーは横縞模様を浮かべた。
……殺せんせーは、自分の弱点も全て知った上で皆と向き合ってたんだな…。直接聞くと、何回目かの言葉でもズシッ、と重みが増す。それは殺せんせーに限らないかもだけど。
皆が完敗を悟った重い空気の中、動いたのは寺坂だった。
「チッ、何が無敵だよ。何とかすりゃ壊せんだろこんなモン」
海に浮かぶ殺せんせーを波から持ち上げ、近くにあったドライバーで殺せんせーの透明球体をガンガン殴り出す。
「ヌルフフフ無駄ですねぇ、核爆弾でもキズひとつつきませんよ」
対して殺せんせーは余裕顔。どうやら痛覚もないらしい。
「そっか〜、弱点無いんじゃ打つ手ないね」
カルマ君はむしろ清々しい笑顔で殺せんせーの前にスマホを置いた。それは、さっき殺せんせーが悶絶しながら見ていた『3年E組が送るとある教師の生態』のワンシーンだ。殺せんせーがカブトムシのコスプレをしながらエロ本をめくっている。
「にゅやーッ!!」
そして一気に赤面。
「やめてーッ、手が無いから顔も覆えないんです!!」
「ごめんごめん、じゃ、とりあえず至近距離で固定してと…」
「全く聞いてない!!」
カルマ君は余裕な表情でスマホを石に寄りかからせ殺せんせーの前で固定すると、さあ次だと言わんばかりにウミウシを捕まえた。
「そこで拾ったウミウシもひっ付けとくね」
「ふんにゅああああッ」
ネトォと糸を引き透明な球体の上を這うウミウシ。
「あと誰か不潔なオッサン見つけて来てー、これパンツの中にねじ込むから」
「助けてーッ!!」
殺せんせーが半泣きで叫ぶ。
「…ある意味いじり放題だよね」
「…うん、そしてこういう時のカルマ君は天才的だ」
茅野ちゃんと渚君はいつも通りの悪魔なカルマ君を見つめ困り顔だ。
「……とりあえず解散だ、皆。上層部とこいつの処分法を検討する」
烏間先生がひょい、と殺せんせーを取り上げた。
