第29章 vanilla 〜蒼き焔の行方〜 / 伊達政宗
「あれ? 政宗、これなに?」
舞が畳に転がる木箱に気が付き、拾い上げた。
政宗はそれを見るや否や、慌てて舞の手から奪い取る。
(すっかり忘れてた……せっかくの段取りが)
むっとする舞に、政宗はこほんと一つ咳払いをすると……
舞にきちんと向き合った。
「お前に贈り物」
舞に見せるように、ゆっくり木箱を開ける。
それを見た舞は、大きな目をさらに大きくさせて、木箱の中身に魅入った。
「……っ、綺麗な指輪……っ!」
「お前、指輪知ってんのか?」
「うん。 でもこんな綺麗なの見た事ない……っ、ダイヤ入ってる……っ!」
舞の発した言葉に理解不可能なとこがあったが、あまり気にせず、政宗はまず大きいほうの指輪を手に取った。
「……これは、俺の」
そう言って、教わった通りに左手の薬指にはめる。
それはあつらえたかのように、ぴったりだった。
そして小さいほうの指輪を手に取った。
「こっちは、お前の」
「え……?」
舞が声を掠れさせる。
政宗は指輪を手でもてあそび、そして続けた。
「これ買ったとこの店主に聞いたんだ。 西洋では、夫婦がお互いの薬指に指輪を付けるって」
「政宗……」
「舞」
政宗はそっと優しく舞の額に口付ける。
そして、目をまっすぐ覗き込み、たった一言。
ありったけの想いを込めて伝えた。
「俺の嫁になれ」
暫しの沈黙。
舞は呆然と政宗を見つめ……
やがて、唇を噛みしめたと思ったら、そのまま綺麗な涙を流した。
「泣くな、馬鹿」
「泣くよ……っ」
「ほら、返事を聞かせろ、早く」
政宗が舞の両頬に手を当てると、舞は潤んだ目で政宗を睨みつけ。
そのまま頬を赤くし、小さな声で言った。
「……政宗のお嫁さんに、なる」
その顔があまりに可愛くて……
政宗は苦笑しながら、舞を抱きしめた。
(……駄目だ、すっげぇ可愛い)
舞の体温が直に伝わる。
この小さな温もりを決して離すまい。
そう小さく決意していると、舞が政宗の背中をとんとんっと叩いた。