第26章 交差する想い
桜「じゃ、慧太。悪いけど頼むね」
慧「おぅよ。紡、行くぞ?」
『うん!・・・ありがとうございました』
ナースセンターの皆さんに挨拶をして、私は晴れて退院した。
慧太にぃがハンドルを持つ隣で、流れる景色をボンヤリと眺める。
まだ、夏には程遠いというのに強い日射しが降りそそぎ、きっと体育館は暑いよね・・・なんて思いを馳せた。
みんな・・・頑張ってるだろうなぁ。
慧「紡、寄り道してやってもいいぞ?」
前を向いたまま突然そんな事を言う慧太にぃに、私は驚いた。
『それは嬉しいけど・・・でも慧太にぃは私を家で降ろしたら仕事行くんじゃないの?今日だって私の為に時間ずらしたんじゃ・・・』
本当なら、少しでも早くみんなに会いたいとは思う。
でも、自分1人のわがままを押し切るには、今の私には勇気が必要だった。
慧「それなら平気。お子様はいらん心配すんじゃねぇーの・・・行きたいんだろ、体育館」
『でも・・・』
慧「桜太もきっと分かってっから、お前の行動はよ。じゃ、進路変更だ。行く前に店寄るぞ。差し入れ考えとけ」
『慧太にぃ、ありがとう!』
嬉しさのあまり、思わず腕に抱きついた。
慧「うわっ危ねぇ!お前オレ共々、桜太の所に引き返すつもりかよ・・・」
『ごめんなさい・・・それだけは丁重にお断りしたいです』
慧「オレもだよ・・・オレが入院なんかしたら、全国の美女達が泣くからな」
慧太にぃの軽口に笑いながら、世界じゃなくて全国なんだ?規模狭いね・・・と返し笑った。
慧「お前さぁ、オレにはホント塩対応な」
『それは慧太にぃがいじわるばっっっっかりするからじゃん』
慧「溜めすぎだろ、そこ。それはだな・・・お前はからかい甲斐があるからだ」
・・・私、そんなに面白いのかな。
『でも、慧太にぃも・・・大好きだから』
前を向いたまま、ちょっと恥しいカミングアウトをしてみる。
すると慧太にぃは、鼻先でフッと笑って私をチラリと見た。
慧「そんなの、とっくに知ってるよ」
桜太にぃとよく似た穏やかな笑顔で、慧太にぃが私にそう返した。
やっぱり、双子なんだな・・・と、改めて感じる。
いつもは全然タイプが違うと思ってても、こういう所は、2人とも同じ顔するんだから・・・ズルイ。
『・・・なんか、負けた感ハンパない』