第26章 交差する想い
桜「紡、夕飯の時間だよ」
静かにドアを開け、桜太にぃが私の食事を運んで来る。
『桜太にぃ、まだ・・・いたんだ?』
桜「まだって、紡は酷いなぁ。真面目に働いてるお兄ちゃんに向かって」
そういう意味じゃなくて!と言いながら、この時間まで病院にいるから・・・と付け加える。
『今日は、当直・・・とか?』
桜「まさか。当直ばかり連勤したら、総務部から怒られちゃうよ。今日は準夜だよ。だから、もう少しだけ、かな?」
準夜、かぁ。
って事は、8時位には・・・帰っちゃうって事だよね・・・
桜「もしかして、寂しい?」
『ち、違うよっ!』
私が言うと、桜太にぃはクスリと笑う。
桜「顔に書いてあるからさ」
『だから、違うって!・・・ここにいると、夜が、長いなぁ・・・って』
1人の夜は、とてつもなく長い。
更に、自分一人では出歩けないから、尚更の事だ。
桜「冷める前に、食べちゃいな?」
お膳を勧められ、箸を持たされる。
『いただきます・・・ねぇ、桜太にぃ。明日は?明日は朝からいる?』
食べながら、桜太にぃの明日の予定を聞いてみる。
桜「明日はおやすみ。だから出勤はしないよ?でも、家の事を済ませたら紡の所には来るから」
『ほんと?!・・・あ、はは、』
つい、喜びの声を出してしまって慌てて笑って誤魔化す。
桜「俺が紡をほったらかしにする訳ないだろ?ね?」
いつもと変わらない穏やかな笑顔で桜太にぃが頭を撫でる。
そう言えば今日、武田先生にも話の最後に同じように撫でられたっけ。
その時も、凄く安心感があって・・・気持ちが落ち着けた。
先生とは病院の中庭まで行って、芝生の上で日向ぼっこをしながらいろんな話をした。
学校の事、バレー部の事、岩泉先輩や、国見ちゃんの事・・・それから、これからの私の事・・・
もちろん、この部屋で何が起きたかとかは、言えないけど。
それでも、誰かに優しくされることが、時には辛く感じる事などをゆっくりと聞いてもらった。
武 ー 城戸さん、あなたはきっと自分が誰かに甘えてばかりでいると思ってはいませんか? ー
『はい・・・』
武 ー 僕は今の話を聞いただけでは確定とは言えませんが、そうではないと思います。城戸さんが甘えてばかりいるのではなく、周りにいる誰かが、あなたに何かをしてあげたくなるんだと思います ー
