第32章 不協和音
『じゃあ、あと何かあれば清水先輩にお願いします』
縁「うん、了解したよ。ありがとう」
ドリンクも作ったし、濡れタオルも用意した。
救急セットもすぐ使えるように出した。
とりあえず清水先輩が来て急いで支度する事はやり終えたから大丈夫だとは思うんだけど···気になる。
縁「もし何かあったらオレ達だって手伝えるし、ほら···あのバカ2人なんて大喜びで手伝いに走るだろうから心配しなくていいよ?···あ、それとも···おまじない足りなかった?」
おっ、おまじない?!
『たっ、足りてます!全然足りてまふっ···』
···噛んじゃった。
恥ずかしくて顔を伏せながらもコッソリ縁下先輩を見れば、平静を装いながらも肩を震わせていた。
『···行ってきます』
縁下「はい、行ってらっしゃい」
いくら道宮先輩から許可を貰ってるとは言っても、あまり遅れてしまうのも申し訳ないからと自分に言い聞かせて、縁下先輩にかるく頭を下げて振り返ると···
菅「頑張ってね、紡ちゃん!」
『スガさん!···と東峰先輩も···あ···』
ニコニコとしながら私の真後ろに立つ2人の後に、何とも言い難い表情をした澤村先輩が立っていた。
『大地、さん···』
菅「紡ちゃんなら、どこへ助っ人に出しても恥ずかしくないからね!」
旭「そうだな···普段はオレ達に混ざって紅白戦とかやってるんだし、大丈夫だろ」
菅「旭と比べるなよなぁ?紡ちゃんは旭とは天地の違いなんだからさ~」
旭「えぇ~···そこにオレを比較対象として出すとか···」
2人のやり取りを聞きながらも、澤村先輩の顔から目が離せない。
お互いに視線が絡まったまま時間だけが過ぎて、フッ···と小さく息を吐いた澤村先輩が無言のまま私の横を通り過ぎて行った。
何か言わなきゃ···そう思いながら振り返ると、澤村先輩もほほ同時に振り返って、ぽんっと私の頭に手を乗せると···何も言わずに中へと入って行った。
『いまの、って···どんな意味なんだろう』
ポツリと呟けば、そばにいた菅原先輩がクスリと笑った。
菅「大地は素直じゃないからなぁ。ちょっとひと言、伝えればいいのにさ」
旭「そうだな。本当はちょっと、寂しがってるのに」
『寂しいって?』
菅「それはさ、オレの口からは言えないな」