第32章 不協和音
『ちょっと!山口君に威嚇しないで!早く飲まないと給水タイム終わるよ!···山口君もごめんね』
山「あ、うん。オレは平気···」
スクイズボトルを渡しながら言って、何気なく山口君を影山から遠ざけた。
『とにかく今はちゃんと朝練に集中して?細かいことは後で話すから』
影「るせぇ、ブス」
ブ···
『いまブスって言ったでしょ!!』
影「ブスはブスだから仕方ねぇだろ。ホントの事を言ったまでだ」
『いまの訂正してよ!あっ!ちょっと、今度はガン無視?!』
何を不貞腐れたのか、影山はそのままフラリとコートに戻り日向君と何かを話し始めた。
それにしても、チビとかは聞き慣れてるけど···ブスってなによ!
山「あの、城戸さんは!その、ちゃんとかわいいから大丈夫!」
···山口君、今はその気遣い大丈夫だから。
月「ま、ポチはポチだからね」
···月島君のはもっといらないから!
もう!と1人で息を吐くと、その様子を見ていた縁下先輩が私の肩に手を乗せて笑った。
縁「大地さんから説明があったよ。ちょっとの間、女バレに行くんだよね?」
『あ、はい···成り行きで、ちょっと···』
縁「成り行きでも、バッチリ仕事はしてくるんだろ?」
『受けたからには、ですけど』
縁「そしたらオレ達は、ちゃんと城戸さんのいない間は頑張るから自分の事をちゃんと頑張ること、だよ?」
縁下先輩の言いたいことが掴めずに曖昧に笑ってしまう。
縁「要するに、城戸さんが考えてる以上にみんな本当は寂しいってことだよ。それが1番分かりやすいのが···アッチ」
こっそりと指さされた方に顔を向ければ、菅原先輩がチラチラと私と縁下先輩の方を見てる。
縁「スガさんはあからさまだけど、大地さんだって本当はそうなんじゃないかな?って、オレは思うけど?」
『でも大地さんは···』
縁「内緒だけどさ。男って、一番肝心な時に一番大事な事が言えない生き物なんだ。だから今は、大地さんも影山も放って置くに限る!···言わば、放置プレイ」
『放置プレイ?!···いいんですかそれで?』
大丈夫だよ、と笑う縁下先輩が更に耳元で小さく囁く。
縁「今日はともかくさ、絶対何か理由を付けて女バレを覗きに行くと思うから。だからその時は、いつもの笑顔を見せてあげな?」
いつもの、笑顔···