第32章 不協和音
教室へ戻ろうとした私を呼び止めた道宮先輩が、ジッと顔を覗いてくる。
『あの?』
道「あのさ、男バレのマネージャーしてるんだよね?」
『はい···そうですけど』
道「ルールは知ってる?!あ、もしかして経験者?!
ポジションどこだった?!」
澤「ちょ、道宮?!」
なんだろ、この道宮先輩の必死な感じ。
それに澤村先輩も、微妙な顔してる。
『ルールは知ってます。一応···経験者、ですし』
質問の意図が見えないままに答えると、道宮先輩はまるでそこに光が当てられたような輝かしい顔を向けながら私をいきなり抱きしめた。
『み、道宮先輩?』
道「澤村、この子···貸して?」
澤「は?」
道「一週間···最悪は当日だけでも!お願い澤村、哀れな私にこの子を頂戴!!」
な、なに?!
話が見えない上に道宮先輩···胸にぎゅうぎゅうするのやめて下さい···
『道宮先輩、ちょっとすみません···苦しいです』
澤「頂戴って言われてもなぁ、ほら、とりあえず紡を離せって」
モゾモゾともがく私を道宮先輩から引き剥がし、澤村先輩が自分の側に寄せた。
『大地さんも、距離が近過ぎですから』
グイッと押しのけ、ちょうど三角形になる感じで立ち位置を確保する。
『とりあえず話が全然見えないんですけど、女子部にマネージャーが欲しいってことですか?それなら清水先輩もいるし、一時的なら私がお手伝いする事はできますけど?』
ね?と流すように澤村先輩を見れば、澤村先輩はそれを聞いて微妙な顔を向けて来た。
澤「欲しいのは···マネージャーじゃないんだよ」
『···というのは?』
澤「青城の女子バレー部主催の交流会に、道宮達にも声がかかってて。だけど、いろんな諸事情が重なって、その···メンバーがひとり足りないらしい」
だから道宮先輩は経験者かどうか、ポジションはどこだと私に···
しかも、青城の女子バレー部···とか。
『お断りします』
道「えっ?!なんで?!」
『なんでもです』
道「そこをなんとか!」
「何とかもどうとかもなりません」
だって···私は···
道「澤村からも頼ん、」
西「お!やっぱ紡か!大地さんも!あぁっ、結先輩~おはようございます!あ、そうだ紡、アイス食うか?半分やるぞ?」
西谷先輩の勢いに、その場の3人が脱力する。