第11章 珈琲色
「御前。本日より当家に勤めます、二宮と大野でございます」
御前と呼ばれた男は、広い部屋の窓辺に置いてあるカウチで寛いでいた。
豪華な金色の刺繍の入ったスエード地のタキシードを身にまとっている。
カウチから少しだけ顔を二人に向けた。
「あっ…に、二宮です」
「…大野です」
それぞれぺこりと頭を下げた。
「二宮は庭を、大野はこれから当家の古い金庫の鍵を順次開けていく予定でございます」
「…ほう…あれを開けることができるのかな?」
少し挑むような目で大野を見た。
「可能です。先日、拝見させていただきましたが、19世紀のものでスケルトンキーの複製をするのに少々時間がかかりますが、それを待たないということであれば、少々表面に傷は残りますが…」
それまで無口だったのに、突然大野は壊れたレコーダーのように鍵について語りだした。
御前はそれを10分程は聞いていたが、途中で遮った。
「わかった。どうやら大野の腕は確かなようだ。これから頼む」
一つ頷くと、また大野は黙り込んだ。
大野の長舌の間に、松本がティーセットを持ってきた。
櫻井は紅茶の準備に取り掛かっている。
その間に松本はザッハトルテを切り分けている。
「ちょどよかった…御前、ティータイムでございます」
「ああ…そうだ。大野、それだけ喋れば喉が乾いたろう?二宮も一緒に、そこで…」
「御前…」
櫻井は難色を示したが、御前はどこ吹く風だ。
「あのぉ…俺は遠慮します…」
二宮は作法もわからないので逃げ出そうとしたが、じっと御前が見つめるものだから、へどもどしながら指し示された椅子に腰掛けた。
大野はしれっと隣に腰掛けている。
「…二宮…」
「はっ…はい!」
「なかなかかわいい顔をしている」
「へっ!?」
「櫻井、今宵は二宮に…がっ…」
突然、櫻井は御前の後ろ頭をはたいた。
「失礼。虫が止まっておりました」
「櫻井…」
「どうぞ、ニルギリでございます」
「櫻井さんっ…ダージリンっ!」
松本が慌てた様子で訂正した。
「…ダージリンでございます」
それから静かにティータイムは流れた。
二宮はこの癖のある面々の顔を見てため息を付いた。
「…うまくやってけんのかなあ…」
ホモ疑惑の貴族にパティシエ…
そして変な鍵屋に主人より強そうな執事…
フリーター前途、多難。
END