第2章 次男✕新人家政婦 紫月麻友
優しそうな表情を浮かべる雇い主である長谷川透の「それでは明日から宜しく頼むよ。」という言葉に紫月麻友は返事をした。
県でも名医と名高い長谷川透の家で家政婦として働く事になった麻友。今年短大を卒業したばかりで、特に資格も取らず、遊び呆けていた学生時代。そんな麻友にいい就職口などある訳もなく、短大卒業後は実家で特に働く訳でもなく毎日ダラダラと生活をしていたが、そんな麻友を快く思わない母親に愚痴を言われるのが嫌で、給料が良く、楽そうな仕事を探し、見つけたのが長谷川家での家政婦の仕事だった。
特に資格は必要なく、仕事内容は家事全般、並びにまだ小学生になる男児がいるとのことで、その子供の世話位。
それだけでこんなに給料が貰えるならとその求人に飛び付いた事を麻友は後に後悔することなる。
「麻友お姉ちゃん、今日から宜しくお願いします。」
礼儀正しく、大人しそうな次男の渉を見て麻友は安心した。悪戯小僧であれば少し面倒だと思っていたからだ。ホッと胸をなでおろす麻友を厭らしい瞳で渉が見ていたことを麻友は気付かなかった。
いざ、働き出してみれば、掃除、洗濯、炊事、それはどれも苦労する程の事ではなく、多少手を抜いても、父親である透は日中家にいない為、文句を言われることもない。長男である優とは何度か会ったことがあるが、家庭教師をしているらしく、長男の優も、父と同じくして家にあまり居なかったため、麻友は自由だった。
そして、芽生えた出来心、雇い主である透の亡くなった妻の部屋から一つ装飾品を盗んだ。それを質屋に持っていくと大層な値がついた。それからスキを見てその部屋から一つ、また一つと盗みを働いた。