第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「いったいどこへ行くんだ、ゾロ?」
タクシーの中で、チョッパーは不思議そうにゾロを見上げた。
ここは知らない島のはずなのに、“知り合い”がいるなんておかしいとは思っていた。
だけど、何か事情があるようだとロビンから聞かされ、昨日は誰もそれ以上踏み込んだことを聞かなかった。
「お前・・・“塵肺”って病気、知っているか?」
「塵肺? うん・・・知っているけれど・・・」
その名前を聞いた途端、顔を曇らせたチョッパーに、ゾロの眉間のシワも深くなる。
「おれの知り合いの弟がその病気にかかっている。お前に診てもらいたい」
「弟・・・? かかってどのくらい?」
「5年ぐらいだ」
「・・・とにかく、診察してみないと。急ごう!」
ゾロから得た情報は、ごくわずか。
しかし、チョッパーの顔はすでに、“医者”のそれだった。
程なくしてタクシーがクレイオの家の前に着くと、そこは異様な空気に包まれていた。
少し離れた場所で、大勢の人間が恐々と中の様子を伺っている。
「なんなんだ、お前ら」
「・・・・・・・・・・・・」
睨みをきかせたゾロに怯えたのか、野次馬は方々に散っていった。
中で何か起こっているのか?
嫌な予感を覚えながらゾロが木戸を開けた、その時。
「いやぁ・・・!」
聞き覚えのある声が響く。
「───クレイオ!!」
ゾロがその場から悲鳴のする場所へ辿り着くまで、数秒もかからなかった。