第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
それから数時間後。
ゾロが売春宿で一夜を明かしたことを知らない麦わらの一味は、メリー号で朝食を取っていた。
「まったくもう! ゾロはいったいどこへ行ったのかしら」
「この港町のどっかにいるだろ~。どうせまた迷子になってんだよ」
「あんたのせいよ、ウソップ。ゾロを見張っててって言ったのに、目を離すから!」
「おれのせいかよ?!」
とばっちりを受けたウソップは、サンジ特製のホットケーキを喉に詰まらせながら、隣に座っているナミから少し距離を取る。
そうしないと、ゲンコツが落ちてくる可能性があるからだ。
「目を離すって言ったって、ほんの数秒だぜ?!」
最初はちゃんとゾロとルフィの三人で歩いていたのだが、ルフィが肉屋に飛び込もうとしたのを抑えたほんの一瞬のうちに、ゾロはこつぜんと姿を消していた。
「あれはもう、イリュージョンだろ!」
そのルフィはといえば、メープルシロップがたっぷりとかかった20段重ねのホットケーキにかぶりついている。
「ちょっとルフィ! あんたも少しは心配しなさいよ!」
「ゾロか? あいつなら心配いらねェよ」
ハムスターのように両頬にホットケーキを詰め込んでいるルフィに、ナミは頭を抱えた。
どこまでも危機感のない船長だ。
ゾロの方向音痴は筋金入り。
しかも、それを自覚していないときている。
「とにかく、今日中にゾロを見つけなさいよ、ルフィ!」
「えー、お前が探せばいいじゃねェか!」
「私はショッピングがあるから無理」
「おれだって今日はウソップ達と山を探検しに行こうと思っ」
「探・し・な・さ・い」
「・・・ハイ」
ものすごい剣幕の航海士に逆らえるクルーは、残念ながらこの船には乗っていない。
結局、ナミとロビンの荷物持ちを引き受けたサンジを除く、ルフィ、ウソップ、チョッパーの二人と一匹がゾロ探索に出ることになった。
───もちろん、出発からものの数分でゾロ探しのことなど忘れ、それは“島探検”に変わってしまうのだが。