第6章 真珠を量る女(ロー)
「反応するということは、やはりお前がクレイオだな」
クレイオは天秤をテーブルの上に置くと、ローを静かに見上げる。
「あるバーで、お前ならホリヨシの居場所を知っていると聞いた」
「貴方が聞いたのはそれだけ?」
「どういう意味だ?」
「私が誰かをホリヨシの所へ案内するのは、その人間を認めた時のみ。貴方に私のことを教えた人は、そうも言っていたんじゃない?」
“もし貴方が彼女に気に入られたら、ホリヨシのところまで案内してもらえる”
テーブルの上の天秤が、カーテンの隙間から差し込んできた明かりを受けてキラリと光った。
「ごめんなさい、私は貴方のような男をホリヨシに会わせたことは一度もないの」
態度はあくまで柔和。
だがその瞳は、目の前の男には一切心の内を明かすことはないと語っていた。
「その男に危害を加えるつもりはねェ。彫ってもらいたい刺青があるだけだ」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオはローの両腕に視線を落とすと、袖から伸びている前腕に描かれているタトゥーを見つめた。
「・・・その程度の絵柄だったら、この島にいる他の彫り師でも彫れるわ」
「ホリヨシが最高の彫り師だと聞いた以上、そいつ以外に頼むつもりはねェ」
「そう・・・でも、諦めて。貴方はホリヨシの“信念”から外れる」
その言葉が何を意味するのか、ローには分からなかった。
そもそも、この女はホリヨシとどういう関係なのか。
彫師と両替商。
その関係性が見えてこない。
「その信念とはなんだ。まさか、札付き相手には商売しねェとかいう、くだらねェことじゃないだろうな」
「海賊だろうが、天竜人だろうが関係ないの。客が彫り師に惚れ、彫り師もその客に惚れた時初めて、ホリヨシは針を肌に刺す」
穏やかな口調ながら、確固とした意思が窺い知れる。
クレイオはローを門前払いにしようとしていた。