第6章 真珠を量る女(ロー)
シャボンディ諸島は、実に奇妙な場所だった。
島を形作るヤルキマン・マングローブの木からは絶えず樹脂でできたシャボン玉が分泌され、空気中にユラユラと漂っている。
造船所が多く並ぶ48番GR(グローブ)にポーラータング号を停泊させたローはまず、べポ、ペンギン、シャチとともに13番GRへ向かった。
「ねー、キャプテン! 13番GRって遊園地あるところ??」
「いや、違う」
べポは向かっている場所が遊園地ではないと知るやいなや、思いっきり残念そうにため息を吐いた。
「おれ、遊園地に行きたかったな」
「しばらく滞在するんだ。飽きるほど行けるから、今は我慢しろ」
「ほんと?! やったー」
嬉しそうにバンザイしているべポに、ペンギンが“うるせェ!”とたしなめる。
白熊は一瞬だけシュンッとなったものの、遊園地のおかげかすぐに機嫌を取り直し、ニコニコしながらローの顔を覗き込んできた。
「遊園地行ったらキャプテンは何に乗る? ジェットコースター?」
「おれは行かねェから、お前らだけで楽しんでこい」
「え?! キャプテンも行こうよ!!」
「用があるから、数日ほど別行動を取るつもりだ」
「えー・・・」
てっきり船長も一緒にシャボンディパークへ行くのかと思っていたべポは、再び意気消沈している。
だが、ローにはなぜ遊園地がそんなに行きたい場所なのか、理解できなかった。
同じ所をグルグルと回るだけのメリーゴーランドや観覧車、ただ落ちるだけのジェットコースターのどこが面白いというのか。
「それより、べポ。この島ではお前のような“目立つ種族”は危険だ。おれがいねェ時は、ペンギン達から離れるなよ」
「アイアイ!」
「誘拐でもされたら、探すのが面倒だからな」
「ちょっと、おれを子ども扱いしないでよ!」
ローは決して、べポを子ども扱いをしているわけではなかった。
この島でなくても、“ミンク族”は珍しい。
人身売買が当たり前のように行われるこの島では、しゃべるクマなど恰好の“商品”となってしまうのを危惧していた。