第6章 真珠を量る女(ロー)
“5代目・・・ホリヨシという男がいる”
“5代目ホリヨシ?”
“シャボンディ諸島のどこかにいる、伝説の彫り師のことだ・・・”
まるで偶像を語るような口調だったが、その彫り師のことを崇拝していることは、彼の目を見れば明らかだった。
“おれはその男の作品を一度だけ見たことがある・・・この世のものとは思えねェ美しさだった・・・”
究極にまで高められたぼかし
品格さえ漂う生きた墨絵
人間技の域を超えた見事な彫り物に、その彫り師は弟子入りを志したという。
だが、全てを捨ててシャボンディ諸島までたどり着いたものの、本人の顔を拝むことすらできないまま、結局は近隣の島に落ち着いていた。
“その彫り師なら必ず、あんたの満足のいく刺青を入れてくれる・・・!!”
“そうか、それはいいことを聞いた”
ローは持っていた心臓を彫り師の体内に戻すと、冷酷な笑みを浮かべながら怯えきっている男を見据えた。
“この続きはそいつに彫ってもらうことにする・・・もし下手な仕事をしたら、お前の代わりに5代目ホリヨシの心臓を奪おう”
それは、目の前にいる彫り師にとっても大きな制裁となるだろう。
心から敬愛する人間が殺される。
その気持ちは、誰よりもロー自身がよく分かっていた。
「ハートの海賊団の印は・・・おれにとって特別なもの。完璧でなければならねェ」
ポツリと呟き、懐かしい笑顔を思い出す。
高い評判を聞いたから頼んだ男だったが、試しに彫らせてみた仕事に満足できず、彼を殺しかけてしまった。
その“伝説の彫り師”とやらも、もしかしたら脳の神経1本1本まで識別するローの御眼鏡には適わないかもしれない。
だが、どうしてもドフラミンゴがいる新世界に乗り込む前に、笑顔を象徴とした海賊の印をこの身体に刻みたかった。
大好きだった人の“本懐”を遂げる、覚悟の証として───
「・・・5代目ホリヨシか・・・・・・」
海は穏やかで、行く手を阻むものは何一つない。
ローは潮風を受けながら、その男がいるというシャボンディ諸島に静かな瞳を向けていた。