第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
別に女などいなくていい。
だが、いたって構わない。
その時、ゾロが取った行動は、あくまで“気まぐれ”の類だった。
「おい・・・あの女の値段は?」
「お客さん、あの子は昼間っからぶっ通しで客の相手をしていたんだ。あんたを満足させられる働きができるかどうか」
「いくらだ?」
引き下がる様子のないゾロに、店主はいよいよ困った顔をした。
店にはまだ、客をとっていない娼婦がたくさんいる。
“使用済み”の娼婦には高い値段をつけられない上に、彼女はこの町を縄張りとしているギャングの馴染み。
面倒事には巻き込まれたくないが、目の前にいる緑色の髪をした男も見るからに凶悪そうだ。
店主は迷った挙句、大きくため息を吐いた。
「そんなに言うなら・・・宿代込みで2万ベリーだ」
女が体を売る値段とは思えないほどの安さに、ゾロの眉間に深いシワが寄る。
娼婦はまだカウンターの端で項垂れたままだ。
ゾロと店主の会話が聞こえていないのだろうか、それとも愛想をふりまく気力すらないのか。
いずれにせよ、憔悴しきっているのは明らかだった。
「・・・2万、でいいんだな?」
「その代わり満足させられる保証はねェし、前の客が出したモンもまだ“中”に残ってるだろう。それでも良けりゃ、好きにすればいい」
「ああ、構わねェ」
ゾロはビールを一気に飲み干してから、2万ベリーに酒代を上乗せし、カウンターの上に置いた。
すると、店主は憐れな娼婦に向かって叫ぶ。
「おい、クレイオ! 客だ!!」
娼婦はゆっくりと顔を上げると、自分を“買った”剣士を絶望的な瞳で見つめた。