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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



『へぇ、大した額だ。此処いらじゃ上玉だもんなァ』

『付けた借金も減っていってるし…このままじゃ、近いうちに足を洗われっちまうぞ』


 ぼそぼそと交される会話は、月房屋を取り締まっている男達のものだった。
 姉に多額な利子で借金を背負わせ、柚霧をこの世界へと引き摺り込んだ張本人達。
 彼らの顔を見るのも嫌だったが、自身の話題には足を止めた。

 襖の隙間に顔を寄せて片目で覗き込む。
 薄暗い灯りの中、柚霧の記録がされているであろう帳簿を見る男達が見えた。


(今更、何? 本来の借金以上のお金を返してるんだから、文句言われる筋合いなんてない)


 不満はあったが、文句を言えば更に借金を被せられるか暴力を振るわれるだけ。
 おはぎを握っていない手で拳を握り耐えた。


『これなら菊葉を切り捨てるんじゃなかった』

(…姉さん?)


 男達が口にしたのは、姉の源氏名だった。


『何言ってやがる』

『あいつを此処に縛り付けておけば、妹も漏れなくついて来たんじゃねぇかってことだ』


 月房屋が柚霧を迎え入れてすぐ、姉は病気を発症し床に伏せた。
 酷い倦怠感に常に襲われ、足腰が上手く使えなくなった。
 それは年々悪化していき、今では食事をするのも柚霧の手を借りないと満足にできない。

 原因不明の病だった。
 医者に診せても、恐らく体を酷使し働いた所為だろうと告げられた。
 身売りの仕事をしていた為、そこで病原体を貰ったのではないかとも言われた。

 その道しか選べなかった姉を、どこか蔑むように見る医者の目が柚霧は嫌いだった。
 自然と医者のいる街から足は遠ざかり、自分の手で姉を世話するようになった。
 原因不明なら的確な改善法も見つからない。
 せめて悪化しないように処方されたその場凌ぎの薬を与えて、神や仏に祈る日々。

 それでも姉は、いつもの明るい自分を忘れなかった。
 借金返済の為に自身の薬の量も減らし、柚霧が帰省する日は必ず起きて待っていてくれた。





『おかえり、蛍ちゃん』





 その名を呼んでくれるのは世界にたった一人だけ。
 その一人だけでよかった。
 優しく温かい笑顔で、必ず迎えてくれる人がいる。
 それだけでこの世界でも、前を向いて生きることができた。

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